第2章でも述べられたように,伴意は推論の単調性と深いかかわりを持っています.第2章では次のように書かれていました.
単調性レンマ. S を S' のある部分グラフとして,S は E を伴意するとすると,そのとき S' は E を伴意する.すみません.ここ訳文では思いっきり間違えていました.正しくはこのとおりです.これをあまり厳密ではありませんが数学的にはこう書きます. S ⊆ S' で S ⊨ E ならば S' ⊨ E でもある.
あるRDFグラフがあったとして(これが S ),それにトリプルを追加しました(結果が S' ).そのとき元のRDFグラフ S で成立していた解釈は増えたRDFグラフ S' でも成立しなければなりません.いいかえると,いろんな解釈がありえてアバウトなものだったものが,知識の追加によってより詳細化・精密化されるけれども,そのときアバウトな知識で言えてたことがくつがえってはならない.これは知識の単調増加原則といって,世界がそうなっているということではなくて,RDFで書くと自然とそうなるという意味でもなくて,推論の都合上の知識に対する要請事項です.たいていの推論システムにおいて置かれている原則なのですが,RDF意味論でもそうしているということですね.
RDF意味論での話の展開そのものにおいても,またRDFからOWLへの拡張においても,単純なものから複雑なものへ,少ない語彙から語彙を追加し,語彙にかかわる公理を追加し,豊富な語彙と複雑な推論に発展していきますが,解釈の可能性は(ここで解釈というのは変数をインスタンス化したときの組み合わせの数みたいなものですよ)ほとんど無限大に近いものからより少ないものに変化していきます.あまり厳密な言い方ではありませんが,テキストとしての S ⊆ S' は解釈世界としての I(S) ⊇ I(S') であり,RDF から OWL へは S から S' なのです.だから本当は,RDFで言えてたことはすべてOWLでも言えなければなりませんが,少なくともメタクラスについては OWL Lite と OWL DL ではそうなっていません.
この語彙拡張によって可能世界は狭められるけれどもより強力になり精緻になる,というのが,拡張という言葉のイメージと合わず,感覚的には受け入れがたいのかも知れませんが,混沌としてなんでもあり,から秩序だった強力な世界へ,1というだけで10を知ることができるような世界になると思ってほしいのです.
で,この6章で言っていることは,ほとんど2章で言っていることと同じですよね.語彙とその公理を Y として追加したとき,S' はもともと言えてたことを言えなければならない.だからもともとの語彙での伴意をX-伴意としたとき,S' においても X-伴意はあらねばならず,追加の語彙に関する追加の伴意を Y-伴意と呼ぶわけです.
一般単調性レンマ. S と S' を S のすべてのメンバーが S' のいずれかのメンバーであるようなRDFグラフの集合であるとする.Y は X の意味論的拡張を表し,S は E を X-伴意して, S と E は Y のいかなる統語論的制約も充足するものとする.そのとき,S' は E を Y-伴意する.話は脱線しますが,人間が行う間違いとか思い込みみたいなものは,RDF意味論では扱うことはできません.一度言ったことは二度と取り消しできない.知識がくつがえることはない.でもこれは理想的であっても現実にはありえず,ずいぶんきつい条件ですよね.これを許そうというのが非単調推論とか真実維持装置(Truth Maintenance System)というもので,これはまだまだ研究段階と言っていいでしょう.蛇足ですが,従来のAI研究と比べてセマンティックウェブの最大の特徴は,その大規模さオープンさにあります.ここでオープンという意味は果てがない,限界がないという意味です.そうするとこちらのコミュニティで使っていた語彙と概念と,あちらのコミュニティで使っていた語彙と概念が別々にあって,それをどう扱ったらよいのだろうか,というのが非単調推論よりもずっとずっとセマンティックウェブの課題なのですが,それを目標としているはずだと私は思っているのですが,現実はまだまだですね.今は DOLCE とか SUMO とか Cyc の知識がお互いにどうなっているという話は聞こえてきません.やっと WordNet へのリンクがとられだしたところです.これ絶対必要なことなのですが,やっぱり大変なのでしょうね.第1に規模の問題です.これらの4つのオントロジーを自由自在にくっつけたり DIFF をとったり,マージしたりできる環境があったら,もう少し何とかなるのではと思っています.
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